何かを好きになることと無意識との関係

何かを好きになることと無意識との関係

2013.02.15に産業技術大学院大学の秋葉原サテライトキャンパスで行われたInfoTalkという勉強会に参加してきました。

講師は日本女子大学 人間社会学部 心理学科の竹内龍人 先生で、『なぜそれを好きになるのか – 選好と無意識の実験心理学』をテーマに、心の中で無意識に進行する選好過程についての最新の実験心理学的知見を紹介していただく、という内容でした。

まだ私の中で咀嚼しきれていないのですが、このテーマはユーザーエクスペリエンスデザイナーにとっても、前提知識として理解しておくと実務での参考になりそうだと感じましたので、より理解を深めるためのポインタになればと思い、講義メモを記載しておこうと思います(時間がないため殴り書いたメモをそのまま転載しておきます。暇な時に言及されている論文にリンクを張るなど手をいれるかも…)。

以下、メモです。

 

  • 端緒となった研究:Robert B. Zajonc 1968 Attitudnal Effects of Mere Exposure (単純接触が態度に与える効果)
    • ゴミ袋をかぶって出席する実験(参考記事
    • 同級生との関係:敵意→好奇心→友情に変わっていった
    • 1968年の実験:単に見るだけで好きになる気持ちが芽生えることがあるのはなぜ?
    • 接触回数の多いもののほうが好きになった(漢字が読めないアメリカ人に対する無意味記号としての漢字の提示実験)
    • 提示回数が多いほど評定が上がる
  • =単純接触効果(mere exposure effect)

 

  • 広告と単純接触効果
    • 2007年 More than meets the eye
    • 映像にダミー広告としてブランド名を露出する実験をおこなった
    • 広告に気づいた郡は広告数に対して好感度が下がった
    • 広告に気づかなかった郡は広告の露出回数が6〜7回以上で好感度が急激に上がった
  • 閾下単純接触効果 (Zajonc 1980 Subliminal mere exposure effect)
    • いわゆるサブリミナル効果
      • (筆者補足)有名な映画中でコーラやポップコーンのサブリミナル広告が有効だったという話は裏付けがとれていない
      • (筆者補足)日本ではNHK、日本民間放送連盟がそれぞれの番組放送基準でサブリミナル的表現方法の禁止を明文化している
    • 意識的には見えていないけれど脳には映像が到達している
    • Unconscious anxiety Ohman & Soares 1994 Journal of Abnormal Psychology
    • クモ恐怖症やヘビ恐怖症の人にサブリミナル映像を見せたらどうなるかという実験
      • サブリミナル実験でも精神性の発汗が起こった。
      • 意識としては見えていなくても光は脳に到達しており、自律神経が反応している
  • Shih et l 2002 JPSP サブリミナルによるステレオタイプの活性化
    • アジア系アメリカ人は数学が得意な人が多い、という一般的なステレオタイプが米国には存在
    • 実際にアジア系アメリカ人に、ステレオタイプを活性化する単語を閾下提示して数学のテスト成績が上がるかを実験した
    • 結果:数学のテスト成績が有意に上がった
    • 被験者がステレオタイプを活性化されたことに気づかなかった時の方が効果が大きい
    • =思い込みやステレオタイプに介入するだけでテストの成績にまで影響がある事がわかった
  • これらの知見から、サブリミナルで見たもののほうが好きという確率が高い
  • 認知的流暢性の誤帰属仮説 Bornstein & D’Agostino (1992)
    • あくまでも一つの仮説
    • 何回も見聞きするとその対象への認知処理が流暢になる(意識化のプロセス)
    • 処理が流暢になっているだけなのに「好ましい」という(意識上の)感情に誤帰属する
  • Predicting short-term stock fluctuations by using processing fluency 2006 PNAS
    • ごく短期の株価は認知的流暢性の誤帰属により予測できる
    • ティッカーシンボルの発音しやすさと株価の変動
    • 発音しやすい企業のほうがIPO後の1年間の株価が高かった
    • 発音しやすい方に1000ドル投資した場合、リターンはしにくいものより333ドル多い事がわかった

 

  • 平均顔が美しく見える現象=認知的流暢性の誤帰属仮説で説明ができる可能性がある
    • 平均的なプロトタイプは認知的に処理しやすい
    • ボタン押しの反応が早い。

 

  • 2つの疑問
    • 認知的流暢性の誤帰属をおこすにはどうしたらいいか、というテーマに対する工学的検討の可能性
    • なぜ閾下の方が効果が大きいのか

 

  • 感情を司る脳の神経処理経路が大きくは2系統にわかれている
    • 閾上:ハイロード 負荷が高い
    • 閾下:ロウロード 負荷が低い

 

  • 認知的流暢性を反映する瞳孔反応 (Kahneman & Beatty 1996 Science)
    • 7桁の数字を覚えさせようとすると3桁のときより瞳孔が開く
    • 好きと判断したものは瞳孔が小さい
    • 意識はしなくても瞳孔に反応が出ているので計測したらわかるんじゃないか

 

  • まとめ
    • 選好判断における閾下過程の重要性
      • 閾下の刺激→行動・生体反応の変容が起こる
    • 帰属という仕組みの重要性
      • 認知的流暢性や生体(情動)反応が「好ましさ」という判断に帰属される
    • 閾下と閾上の橋渡し

 

もしかすると選好の心理過程については広告業界などでお仕事をされている方にとっては常識レベルのことなのかもしれませんが、私としては知らないことも多く、非常に参考になる勉強会でした。

(2013.02.20 追記)

とても多くの方がこの講義メモをソーシャルブックマークやTwitter経由でお読みになったことを知り、驚いています。無意識の心理学についての関心の高さを感じました。本記事はあくまでも講義メモのため、間違ったり不正確だったりする部分があるかと思います。その点はなにとぞ、ご容赦頂ければと思います。探せる範囲で、勉強会で言及のあった論文にリンクしました。